プロが教える健康のための予防医学

高齢化が進む昨今、病気や健康への不安は誰もが抱える悩みではないでしょうか。いち内科医の立場から一般の方へ分かりやすく、健康でいるための予防医学について説明していきます。

2019年02月

こんにちは。今日は茨城県に来ています。
外来の患者さんもひと段落したので、今回は心不全について書こうと思います。

心不全とは何か?正確な定義ではないですが、分かりやすく言うと心臓の動きが悪くなることで全身にうまく血が回りにくくなり、むくんだり息が苦しくなったりする病気、です。

まず大前提として、心臓とはどのような働きをする臓器なのでしょうか? 心臓は、血液を全身に巡らせるためのポンプの役割を担っています。血液には栄養分や酸素が含まれており、どの臓器も血液によって栄養や酸素をもらわないと生きていけないのです。当たり前ですが、心臓が止まってしまうと生きてはいけません。まず真っ先に脳が死んでしまいます。しかも数分単位で。このことから、心臓は最も大事な臓器と言われています。

さて、本題に戻りましょう。ではなぜ心臓の動きが悪くなるのでしょうか?老化?
いやいや、原因はちゃんとあります。ただその原因にも種類があるので、多くの人が勘違いしてしまうのです。大きく分けて4つありますので順に説明していきます。

①心臓の血管が狭い

さっきどの臓器も血液の栄養が必要だと言いましたが、心臓も例外ではありません。心臓自体も、冠動脈と呼ばれる3本の細い血管で栄養や酸素を受けて、動いているのです。この血管が詰まる病気が狭心症とか、心筋梗塞です。聞いたことのある方も多いと思います。なにせ日本人の死亡原因のトップ3に入る病気です。3本ある冠動脈のうち、1本でも詰まれば、それは命に関わることもあるのです。血管が詰まりかかっている状態が狭心症、完全に詰まってしまうと心筋梗塞となります。誰でもそうですが、栄養不足、酸素不足では元気がなくなります。心臓も同じで、栄養がいかないとやがて動きが落ちてしまいますし、心筋梗塞に至っては心臓の細胞が大部分死んでしまうので、死んでしまった部分はもう二度と動かなくなるのです。このため、心筋梗塞の後遺症として心不全が起こることは多いです。

次に治療方法ですが、基本的には薬はもちろん大事ですが、薬のみでは完治はしません。医師が必要と判断した場合はカテーテル治療となります。狭窄の箇所があまりに多すぎる場合や、血管の根元から詰まりかかっている場合などはバイパス手術という、他の血管を取ってきてつなぎ合わせる手術が必要な場合もあります。

②弁膜症

いわゆる弁膜症という病気は、最近CMでも見かけることが多くなりましたが、実は正確な病名ではありません。その前にまず心臓の構造について説明します。心臓は、実は4つの小部屋に分かれています。右心房、右心室、左心房、左心室の4つです。心臓の弁とは、この部屋と部屋の間、また部屋から出てくる血管の逆流防止をするためについているドアのようなものです。右心房と右心室の間にあるドアを三尖弁、左心房と左心室の間のドアを僧帽弁。また右心室から肺動脈という、肺へ向かう血管が出ていますが、この血管の弁を肺動脈弁と言います。また左心室から全身を栄養するために出てくる血管を大動脈と言いますが、この血管についてる弁を大動脈弁といいます。これらの弁は、長年生きていると段々と壊れてきます。ドアの例えに戻りましょう。長年使い古したドアは、やがて石灰化と呼ばれる変化を起こして硬くなり、出口が狭くなってしまうことがあります。これを狭窄症といいます。狭窄がひどいと、ドアの出口が狭くなるだけでなく、ほとんどドアが開かなくなってしまいます。またドアの具合が悪くなり、開くけれどうまく閉じない、といったことが起こり得ます。これを閉鎖不全症といいます。ドアの不具合は主にはこの2つがあります。先ほど弁は4種類あると言いましたが、それぞれに狭窄、閉鎖不全が起こるので、都合8通りの弁膜症があることになります。

いずれにしても、弁膜症でドアの開閉がうまくいかないと、心臓の仕事量が増えてしまい、やがて心臓は過労で弱っていき心不全となってしまいます。

弁膜症の治療は、その進行具合にもよりますが、重症な場合は基本的には手術治療しか方法がありません。最近ではカテーテル治療も一部ではできますが、いずれにせよ①同様に薬だけでは完治できない病気です。大事なのは、毎年健康診断で医師の診察を受け、手術のタイミングを逃さないように適切なタイミングで病院にかかることだと思います。

③心筋症

心筋症とは、心臓の筋肉の異常によって、心不全になる病気です。これまで①と②で、心臓を栄養する血管や、ドアの問題をお話ししましたが、心臓とは元々ポンプ、筋肉の塊なのです。
その心臓の筋肉、つまり心筋に異常がある病気を心筋症と言います。詳細は複雑になるので割愛しますが、心筋症も弁膜症のような総称表現になるので、具体的にはいくつも種類があります。多いもの、誰もがなりうるものは、高血圧状態を長年放置していると心筋の肥大が生じるものです。検診で心肥大と言われました、という方も多いと思います。血圧は、血管の抵抗なので、血圧が高いと、その分心筋が頑張って動くため、ある意味心臓の筋肉が自分の意思とは関係なく筋トレをしているような状態です。筋トレで心臓が強くなるならいいじゃないか、と思われる方もいるかもしれませんが、手足の筋肉と違って心筋はほとんどが再生しないので、筋トレして肥大した心筋は、やがて疲弊して動きが落ち、むしろ弱っていきます。このため心臓の動きが悪くなるのです。

一方で、心筋症には何種類もあると言いましたが、遺伝子の異常が原因で生まれながらに心臓の病気を背負ってしまう方も残念ながらいます。心筋症の怖いところは、こうした生活習慣病的な要素よりも、遺伝子の異常により若くして心不全になってしまう方がわずかながら存在するところだと私は思います。遺伝子の異常と心筋症、心不全の関係性は未だに分かっていないところも多く、実は私の現在の研究テーマと深く関わる分野の話です。今回は省きますが、いずれ皆さんに読んでもらえるようになれば機会があれば話せたらなとは思っています。

この心筋症ですが、基本的には薬の治療しかできないのが現状です。なぜなら心臓そのものは代わりが効かないからです。例外として心臓移植という治療がもちろんありますが、日本の法律、脳死判定の基準の特性上、移植を受けたいこどもたちの数と、移植のドナーとなる脳死患者さんの数に差があり、移植を受けられる患者さんはごく僅かなのが現状です。外国で手術を受けられる患者さんもいますが、入院費や手術費などで莫大なお金がかかってしまいます。
参考までに、このテーマを元にした映画を見てきました。なかなか良くできていて、医師としても考えさせられる内容になっていましたのでよかったら見てみてください。


④不整脈

最後に、不整脈についてです。不整脈も総称ですので、細かく分けると、起こった瞬間に心臓が停止する致死的なものから、検診で様子を見ましょう、といった程度の軽いものまで様々です。長くなってしまったので詳細はまた機会がありましたら書きますが、不整脈も心臓にとっては効率の悪いもので、心不全の原因ともなりえます。具体的には脈がものすごく速い不整脈と、脈がとんでもなく遅い不整脈があり、どちらも心臓にとっては負担となります。


心臓の分野は私の専門になるので、1話では語りきれないですし、また細かいところは項目ごとに書いていけたらなと思っています。またよろしくお願いします。 シェーマ図は下記より引用 http://www.benmakusho.jp/about/benmakusho.html




こんばんは。第2回は糖尿病と高脂血症についてやっていきたいと思います。読者はほぼゼロに近いですけど、頑張ります笑
さて、前回説明した高血圧と並んで生活習慣病と言われるこの2つ。確かに焼肉、ハンバーガー、ポテトにビール、唐揚げに白飯!笑  という生活を続けているとなる病気、というイメージで、それは正しいです。しかし、逆は必ずしも真ならず。
糖尿病や高脂血症の患者さんは全員が生活習慣の悪いだらしのない人かというと、実はそうではありません。この2つの病気、お医者さんなら知っていて当然ですけど意外と奥が深いんです。




管理栄養士監修の気配り宅配食 【腎臓病の方向け】たんぱく制限(10g)気配り宅配食 もったいぶらずに結論から申し上げますと、この2つの病気は、「遺伝や体質のためにやむを得ずなってしまうこともある」のです。
具体的には、1型糖尿病と、家族性高コレステロール血症です。


話が複雑になりそうなのであまり掘り下げませんが、要は何が言いたいかと言うと、糖尿病だからだらしない人、というのは大きな誤解だと言うことです。もちろん生活習慣でなるケースが大半ではあるのですが・・・


この1型糖尿病は、若くて痩せている人でもなる病気で、先天的にインスリンという膵臓から出る血糖値を下げるホルモンがほとんど出なくなってしまうために起こります。大半の糖尿病は2型糖尿病ですので、まずは生活習慣や食事の改善、運動、その次に飲み薬、それでもダメならインスリンの注射薬、といった具合に治療していきますが、何も悪いことをしていないのに不幸にして1型糖尿病にかかってしまった患者さんはインスリンを注射で打つしか今の医学では治療法がないのです。

一方高脂血症ですが、読んで字の通り、血液中の脂肪成分が高い、という病気です。具体的には中性脂肪とコレステロールです。中性脂肪を下げる薬もありますが、私の経験上あまり効果は出ません。やはり運動やカロリー制限がある程度は大事になります。

コレステロールには、善玉と悪玉があります。聞いたことある、という方もいると思います。簡単に言うと、善玉は多い方がいい、悪玉は少ない方がいい、と覚えてください。

病院で採血結果をもらってもどれが善玉でどれが悪玉か分からないよ!という方のために。
善玉は別名HDLコレステロール、悪玉は別名LDLコレステロールと言います。よくHDL-C、LDL-Cと略されているものです。細かく分けると他にも種類はありますが、この2つを覚えておけばそれでよいです。ちなみに善玉と悪玉、その他を合わせたのが総コレステロールと言います。Total-Cと書かれているかもしれません。

健康診断などで採血結果を見るときは、どのコレステロールが高いのかに注意して下さい。
例えば、コレステロール200と言われた!
と言っても、総コレステロールが200で、そのうちHDLが60、LDLが100であればあまり問題はないわけです。(説明の都合上、細かい部分は省きましたが、LDLとHDLを足すと総コレステロール、という単純な計算ではありません)

しかし、LDLが200あると、大きな問題です。
私の経験上、ロクなことがありません。

私の専門は内科の中でも循環器内科という分野で、心不全とか心筋梗塞といった病気を治療することが多いですが、心筋梗塞で運ばれてくる患者さんの半分近くは、このLDLコレステロールが高いことが1つの原因だと考えています。
あくまで私の私見、感覚的な話ですが。

このLDLコレステロールも、遺伝的に10代や20代の頃からとても高い場合があります。それは先ほどの家族性、という病気ですが、それ以外でもLDLコレステロールは体質に影響されやすいと言われています。具体的には、全然太ってもないし、食べるものにも気をつけて運動もしている、それでも高い。こういった患者さんは、体質的にLDLが高いから、ある意味では仕方のない状況なのです。問題は、それでどうするか?ということです。自分は運動も頑張ってるから薬は必要ない。これは間違いです。ご本人は悪くない時でも、実際に数値が高いことは将来患者さんの不利益になりえます。正解は、病院で適切な処方を受けて、きちんとコレステロールが下がるようにコントロールすること。
他ならぬ自分自身、そして家族のためにも、病気の正確な理解と行動が必要だと私は思います。


まとめです。
第1回の血圧の話でも触れましたが、糖尿病、高脂血症は、「今は大丈夫だけど放っておくと後々ロクなことがない長い付き合いの病気」と言えます。それぞれ、詳しく掘り下げるとかなり長くなるのでそれはまた次回以降に譲りますが、時間に限りがある内科の外来で、どうしても一般の方に正確な知識を理解してもらうのは難しい。そんな中で、本ブログを読むことで、少しでも病気に対する理解が深まればと考えております。




初めまして。とある内科医のブログです。
ここでは一般の方にも分かりやすいような病気の予防について解説していきたいと思います。
記念すべき第1回目は「高血圧症」についてです。

一般の方向けに、なるべく小難しい医学用語を使わずにフランクに説明していきたいと思います。


①高血圧とは?

その名の通り、血圧が高いことをいいます。具体的には上の血圧で140以上を指します。


②なんで高血圧は悪者なの?

では次に、高血圧がなぜ悪さをするのかを説明します。
これはあなたが現在何歳で、今までにどういう病気にかかってきたかによって変わってきます。
例を挙げましょう。

例1) あなたが30歳でこれまでいたって健康だった場合

この場合、多少血圧が高くても多くの場合、すぐには何も起きません。
(もちろん健康診断で何も異常がなくても稀な病気が隠れている場合もあるので例外はありますが)

ではこの先ずっと放っておいていいかといえばそうではありません。
人生は長いので、例えば血圧150の状態で365日、何十年も過ごしていた場合は病気になります。
血圧とは血管にかかるストレスなので、長年高い圧力に頑張って耐えてきた血管は硬くなり、血管そのものが詰まりやすくなったり、その先にある他の臓器が痛んでいくのです。
血管が詰まる、例えば脳梗塞や心筋梗塞といった病気。
痛む臓器は様々ですが、よくあるのは腎臓が硬くなり、機能が落ちてしまいます。腎臓は尿という形で老廃物をろ過して不要なものを捨てるためにあるので、腎臓が働かなければその代わりに透析が必要になります。

といったように長期的にはあなたの健康や人生に不利益をもたらすことが分かっているので、私たちは患者さんにしつこく血圧はどうですか?と聞くのです。

例2)お腹に動脈瘤があると言われ、定期的に病院に通う60代の方。

この場合は先ほどとは違い、私たちは患者さんにより厳しく血圧を下げることをお願いします。
具体的には120以下、です。理由は簡単で、この方の場合は血圧が高くなることで動脈瘤が大きくなり、運が悪ければ突然破裂してしまう、リスクが高くなるからです。これは10年20年といった話ではなく、今の問題なのです。

③血圧を下げるにはどうしたらいいの?


では第1回の最後に、具体的な治療について説明します。
②で説明したように患者さん個人個人により事情は違ってくるので一概には言えないのでもちろんかかりつけの先生に相談するのが1番なのですが、ここでは治療の段階について説明していきます。

まず薬を使わず誰でもできること、それが減塩です。つまりしょっぱい味付けをやめて毎日の食事を薄味にするということです。日本人は塩分大好き民族なので、梅干し、漬物、味噌汁、しょうゆといった日本食を代表する塩分は、気を付けていても無意識に摂取してしまいます。

病院とかで1日の塩分目標は6g以下です、なんて言われてもなかなかピンと来ないと思います。
例えばラーメン1杯を汁まで飲んだらそれだけで塩分6~7gと言われており、1食で既にオーバーしてしまいます。

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もう1つ大事なのが、適度な運動と肥満の解消です。このあたりは言われなくてもそのくらい分かってる、という方が大半だとは思いますが、具体的には筋トレや短距離走のような無酸素運動ではなく、速歩などの有酸素運動がよいと言われています。高血圧の患者さんの中には、心臓が悪い方や、過度な運動を避けるよう言われている方もいると思いますが、「きつくない」程度の運動は血圧だけでなく、肥満の解消や、心不全の治療にも効果があります。(担当の先生から運動を禁止されている方はこの限りではありませんのでご注意下さい)

最後に、運動も減塩も頑張っているのに血圧が下がらない、という悩みを抱えている方も多いと思います。血圧は人間と同じで生き物です。食事や生活習慣だけでなく、遺伝や気候(寒さなど)、精神的な緊張やストレス、不眠といった色々なことが関係しています。「頑張っているけれどどうしても下がらない」という方は、まずは勇気を出して病院に行ってみましょう。

外来をやっているとよく、「血圧の薬って飲んだらやめられないんでしょ?」という質問を受けることがあります。この質問の裏には、「高血圧は心配だけど薬を飲んで依存性が出てしまうのが心配」とか「ほんとに飲まないといけないの?薬の副作用も心配だしただ単に病院の営業目的なんじゃないかな?」とか色々な思いや悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

まず大前提として、「血圧の薬は飲んだらやめられない依存性のある薬物」ではなく、②で説明したような長期的な病気の予防に備える第一歩なのです。例外もあるかもしれませんが、私を含めほとんどの内科医は患者さんの長期的な健康のために高血圧の薬を提案しています。さきほども言いましたが、日本人は塩分を好む傾向にあり、必然的に血圧は高くなりがちなのです。





血圧の薬は麻薬でも禁止薬物でもありません。確かに時々副作用やアレルギーの出てしまう方もいらっしゃいますが、薬を飲むことが高血圧をこの先放置しておくことよりメリットがあるからこそ、内服薬の提案をしています。それでも運悪く副作用(と思われる症状)が出てしまった場合や我慢せずに速やかに担当の先生に連絡して相談するようにしてください。

第1回はこれにて終わりです。最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
私は予防医学の普及で、日本の医療費問題や健康寿命の延長といった日本の抱えている問題解決の助けに少しでもつながればと思っています。いつまで続けられるか分かりませんがまた更新していくつもりですので今後ともよろしくお願いします。


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