こんにちは。今日は茨城県に来ています。
外来の患者さんもひと段落したので、今回は心不全について書こうと思います。
心不全とは何か?正確な定義ではないですが、分かりやすく言うと心臓の動きが悪くなることで全身にうまく血が回りにくくなり、むくんだり息が苦しくなったりする病気、です。
まず大前提として、心臓とはどのような働きをする臓器なのでしょうか? 心臓は、血液を全身に巡らせるためのポンプの役割を担っています。血液には栄養分や酸素が含まれており、どの臓器も血液によって栄養や酸素をもらわないと生きていけないのです。当たり前ですが、心臓が止まってしまうと生きてはいけません。まず真っ先に脳が死んでしまいます。しかも数分単位で。このことから、心臓は最も大事な臓器と言われています。
さて、本題に戻りましょう。ではなぜ心臓の動きが悪くなるのでしょうか?老化?
いやいや、原因はちゃんとあります。ただその原因にも種類があるので、多くの人が勘違いしてしまうのです。大きく分けて4つありますので順に説明していきます。
①心臓の血管が狭い
さっきどの臓器も血液の栄養が必要だと言いましたが、心臓も例外ではありません。心臓自体も、冠動脈と呼ばれる3本の細い血管で栄養や酸素を受けて、動いているのです。この血管が詰まる病気が狭心症とか、心筋梗塞です。聞いたことのある方も多いと思います。なにせ日本人の死亡原因のトップ3に入る病気です。3本ある冠動脈のうち、1本でも詰まれば、それは命に関わることもあるのです。血管が詰まりかかっている状態が狭心症、完全に詰まってしまうと心筋梗塞となります。誰でもそうですが、栄養不足、酸素不足では元気がなくなります。心臓も同じで、栄養がいかないとやがて動きが落ちてしまいますし、心筋梗塞に至っては心臓の細胞が大部分死んでしまうので、死んでしまった部分はもう二度と動かなくなるのです。このため、心筋梗塞の後遺症として心不全が起こることは多いです。
次に治療方法ですが、基本的には薬はもちろん大事ですが、薬のみでは完治はしません。医師が必要と判断した場合はカテーテル治療となります。狭窄の箇所があまりに多すぎる場合や、血管の根元から詰まりかかっている場合などはバイパス手術という、他の血管を取ってきてつなぎ合わせる手術が必要な場合もあります。
②弁膜症
いわゆる弁膜症という病気は、最近CMでも見かけることが多くなりましたが、実は正確な病名ではありません。その前にまず心臓の構造について説明します。心臓は、実は4つの小部屋に分かれています。右心房、右心室、左心房、左心室の4つです。心臓の弁とは、この部屋と部屋の間、また部屋から出てくる血管の逆流防止をするためについているドアのようなものです。右心房と右心室の間にあるドアを三尖弁、左心房と左心室の間のドアを僧帽弁。また右心室から肺動脈という、肺へ向かう血管が出ていますが、この血管の弁を肺動脈弁と言います。また左心室から全身を栄養するために出てくる血管を大動脈と言いますが、この血管についてる弁を大動脈弁といいます。これらの弁は、長年生きていると段々と壊れてきます。ドアの例えに戻りましょう。長年使い古したドアは、やがて石灰化と呼ばれる変化を起こして硬くなり、出口が狭くなってしまうことがあります。これを狭窄症といいます。狭窄がひどいと、ドアの出口が狭くなるだけでなく、ほとんどドアが開かなくなってしまいます。またドアの具合が悪くなり、開くけれどうまく閉じない、といったことが起こり得ます。これを閉鎖不全症といいます。ドアの不具合は主にはこの2つがあります。先ほど弁は4種類あると言いましたが、それぞれに狭窄、閉鎖不全が起こるので、都合8通りの弁膜症があることになります。
いずれにしても、弁膜症でドアの開閉がうまくいかないと、心臓の仕事量が増えてしまい、やがて心臓は過労で弱っていき心不全となってしまいます。
弁膜症の治療は、その進行具合にもよりますが、重症な場合は基本的には手術治療しか方法がありません。最近ではカテーテル治療も一部ではできますが、いずれにせよ①同様に薬だけでは完治できない病気です。大事なのは、毎年健康診断で医師の診察を受け、手術のタイミングを逃さないように適切なタイミングで病院にかかることだと思います。
③心筋症
心筋症とは、心臓の筋肉の異常によって、心不全になる病気です。これまで①と②で、心臓を栄養する血管や、ドアの問題をお話ししましたが、心臓とは元々ポンプ、筋肉の塊なのです。
その心臓の筋肉、つまり心筋に異常がある病気を心筋症と言います。詳細は複雑になるので割愛しますが、心筋症も弁膜症のような総称表現になるので、具体的にはいくつも種類があります。多いもの、誰もがなりうるものは、高血圧状態を長年放置していると心筋の肥大が生じるものです。検診で心肥大と言われました、という方も多いと思います。血圧は、血管の抵抗なので、血圧が高いと、その分心筋が頑張って動くため、ある意味心臓の筋肉が自分の意思とは関係なく筋トレをしているような状態です。筋トレで心臓が強くなるならいいじゃないか、と思われる方もいるかもしれませんが、手足の筋肉と違って心筋はほとんどが再生しないので、筋トレして肥大した心筋は、やがて疲弊して動きが落ち、むしろ弱っていきます。このため心臓の動きが悪くなるのです。
一方で、心筋症には何種類もあると言いましたが、遺伝子の異常が原因で生まれながらに心臓の病気を背負ってしまう方も残念ながらいます。心筋症の怖いところは、こうした生活習慣病的な要素よりも、遺伝子の異常により若くして心不全になってしまう方がわずかながら存在するところだと私は思います。遺伝子の異常と心筋症、心不全の関係性は未だに分かっていないところも多く、実は私の現在の研究テーマと深く関わる分野の話です。今回は省きますが、いずれ皆さんに読んでもらえるようになれば機会があれば話せたらなとは思っています。
この心筋症ですが、基本的には薬の治療しかできないのが現状です。なぜなら心臓そのものは代わりが効かないからです。例外として心臓移植という治療がもちろんありますが、日本の法律、脳死判定の基準の特性上、移植を受けたいこどもたちの数と、移植のドナーとなる脳死患者さんの数に差があり、移植を受けられる患者さんはごく僅かなのが現状です。外国で手術を受けられる患者さんもいますが、入院費や手術費などで莫大なお金がかかってしまいます。
参考までに、このテーマを元にした映画を見てきました。なかなか良くできていて、医師としても考えさせられる内容になっていましたのでよかったら見てみてください。
④不整脈
最後に、不整脈についてです。不整脈も総称ですので、細かく分けると、起こった瞬間に心臓が停止する致死的なものから、検診で様子を見ましょう、といった程度の軽いものまで様々です。長くなってしまったので詳細はまた機会がありましたら書きますが、不整脈も心臓にとっては効率の悪いもので、心不全の原因ともなりえます。具体的には脈がものすごく速い不整脈と、脈がとんでもなく遅い不整脈があり、どちらも心臓にとっては負担となります。
心臓の分野は私の専門になるので、1話では語りきれないですし、また細かいところは項目ごとに書いていけたらなと思っています。またよろしくお願いします。
シェーマ図は下記より引用
http://www.benmakusho.jp/about/benmakusho.html