プロが教える健康のための予防医学

高齢化が進む昨今、病気や健康への不安は誰もが抱える悩みではないでしょうか。いち内科医の立場から一般の方へ分かりやすく、健康でいるための予防医学について説明していきます。

こんにちは。昨日に引き続き今日は第2弾ということで、生化学検査についてです。
そもそも、生化学ってなんだ?というところからですが、分かりやすく言うと、肝臓や腎臓、尿酸といった内臓機能の数値を見る検査です。概念的な話をしても仕方ないので具体例をどんどん見ていきましょう。

●肝機能検査

AST(GOT)
ALT(GPT)
LDH

まずはこの3つからです。ASTやALTは、肝細胞から出る酵素で、GOTとかGPTと書いてあることもありますが同じだと考えてください。ALTの方が肝臓自体が障害された時により高く出ます。LDHは乳酸脱水素酵素と呼ばれる酵素で、肝臓以外の病気でもよく上がります。

これらはどういう時に上がるかといえば、多いのはたくさんお酒を飲む人や、肥満のある人です。
また皮下脂肪があまり目立たなくても、内臓脂肪といって肝臓などの臓器に脂肪がついている場合もあります。その他、薬の副作用などで上がることもあるので注意が必要です。

なお飲酒に関しては、厚生労働省が日本人男性を対象とした研究で、1日約20g(焼酎1合程度)の飲酒が体にはちょうどよいとしています。それ以上は飲みすぎってことですね。

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●腎臓機能検査

尿素窒素(BUN)
クレアチニン(Cre)

腎臓はこの2つです。というか、クレアチニン値だけ覚えていれば基本的には大丈夫です。
クレアチニンとは、筋肉で作られる老廃物、不要なもので、腎臓でろ過されるのですが、腎臓の機能が悪いとあまりろ過されずに採血で高い値が出る、という仕組みです。腎臓が悪いと数値はもちろん高くなりますが、「若くて」、「体格のいい」、「男性」は元々の筋肉の量が多いので高めに出ます。
逆も然りで、小さいおばあちゃん、なんかは低い値が正常値となります。だいたい男性で0.6~1.0mg/dL、女性で0.4~0.8mg/dLが正常値ですが、基本的には低い方が健康という証です。

なお腎臓が悪い、の最終的な治療は透析ですが、これは腎臓から尿がつくられないので、代わりに血液を機械でろ過してまた戻すという治療です。参考までに、透析患者さんのクレアチニン値は透析直後で3~4mg/dL、透析前ですと6~8mg/dLくらいでしょうか。つまりそのくらい高くなってしまうと週に3回、透析のため病院で4~5時間治療を受けなければいけないということになってしまいます。

腎臓を保護するにはどうしたらいいか、ということですが、残念ながら一時的に腎機能が悪くなっているケースを除いて、徐々に進行する「慢性腎臓病」において自身の腎機能を「今よりも良く」する治療はまだ開発されていません。(自身の、と書いたのは腎臓移植という治療があるからです)

結論としては、健康診断をしっかり受けて、万が一腎臓が悪いと言われた場合は高血圧や糖尿病といった腎臓を悪くする要素の治療を受け、強い解熱鎮痛剤などの腎臓に負担のかかる薬の内服は可能な限り避けるのが無難です。「これ以上悪くしない」ようにするのです。

当初3部構成で行く予定でしたが、書き始めたら思いのほか長くなりそうなのでいったん区切ります。
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こんばんは。今回は健康診断の検査値の解釈について勉強しましょう。
といっても健康診断の項目はかなり幅広いので、今回は採血検査に注目して説明していきます。
それでも長くなるので、①血算、②生化学、③凝固系、その他に分けて3部構成で解説していきます。

①血算

まず血算。カッコ内は医学用語での略語です。

検査の項目としては、白血球(WBC)、赤血球(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)、血小板などからなります。細かいことを言うともう少しありますが(MCV, MCHなど)、一般の方が知っておくべきものに限定して説明します。まず血液の成分は血球と血漿に分けられます。血球とは細胞成分、血漿とは液体成分です。・・・回りくどいですね。



はっきり言います、白血球、赤血球、血小板の3人のキャラクターだけ覚えてください。


①-1 白血球

バイ菌と戦ってくれる免疫を司る成分です。これがあるから多少の細菌やウイルスが体内に入っても自力で何とかしてくれるわけです。彼らがいないとすぐさま細菌やウイルスにやられてしまい生きていけません。

白血球の正常値は、血液1μLあたり、だいたい4000~8000個です。μL(マイクロリットルと読みます)とは、1ml(1cc)の1000分の1です。

他の項目でもそうですが、検査値をみるときは、単位に注意してください。一般的には医師どうしの会話でも、「この患者さんは白血球が12000個あるから白血球が上がっている、高いね」というように「4000~8000個」くらいの物差しで認識しています。しかし、病院によっては検査値の表示単位が違うこともあります。

では白血球が高いとき、低いときはどういうことが考えられるでしょうか。

白血球が高いときにまず考えられるのは感染症です。体の中にばい菌が入ると、それをやっつけないといけないので白血球がたくさん作られるわけです。ちなみに風邪などのウイルス感染でも多少は高くなりますが、肺炎や尿路感染などの「細菌」感染の時に高くなりがちです。

その他、白血球が高くなる病気は、白血病や悪性腫瘍(癌のことです)、ステロイドと呼ばれる薬を内服している場合などが考えられます。白血球が正常値より高いから必ずしも異常かと言われるとそうではなく、もともと体質的に少し高めの方もいるので、普段の自分の値と比べて高くなっているかどうかがポイントとなります。

また白血球が低いときには何が考えられるでしょうか。白血球は骨髄と呼ばれる場所で作られますが、何らかの原因で骨髄が弱っているときに低くなることが多いです。具体的には、血液系の病気で下がるケースや、薬の副作用などにより下がっている場合などがあります。また病気ではありませんがご高齢の方では年齢的に下がってくることが多いです。

※重症感染症で、骨髄が白血球が作れないくらい弱ってしまい白血球が低くなることがありますがそんな状態では歩くことすらままならないと思いますので割愛します。

①-2 赤血球

次に赤血球です。赤血球の話をする前に、皆さんは貧血というとどういう状態を想像するでしょうか。
おそらく半分くらいの人は、学生が朝の朝礼でフラッと倒れてしまう、そういった様子を想像するかもしれません。よく誤解されやすいのですが、医学用語でいう貧血は少し違います。

赤血球にあるヘモグロビンというタンパクは酸素を全身に運ぶ役割を担っています。
この赤血球、もしくはヘモグロビンが低い状態を貧血といいます。
貧血の原因は様々ですが、女性などに多いのは、鉄欠乏性貧血という病気です。
赤血球を作るのに、鉄が必要なのですが、鉄欠乏性貧血とはその名の通り、体内の鉄分が不足することで赤血球が作れなくなります。鉄剤を飲めばやがてよくなることがほとんどです。

他には腎性貧血といって、腎臓の機能が不可逆的に落ちていくと、やがて貧血が起こります。
少し難しい話ですが、腎臓から出ている「エリスロポエチン」というホルモンが、赤血球の産生を促す作用があるのです。このため腎臓が悪くなりエリスロポエチンが低下すると貧血が起こります。

最後に、出血が挙げられます。あまり考えたくはないですが、例えば胃癌や大腸癌などがあると、食べ物が胃や腸を通過するときに癌から血が出ます。すると血便が出たり、便が黒くなったりします。
(※ただし鉄欠乏性貧血などで鉄剤を飲んでいると便が黒くなるので黒色便=癌ではないです)

食事は毎日のことなので、目で見てわからないレベルでも、徐々に出血で血が薄くなり、貧血が進むことがあります。

その他、血液系の稀な病気やビタミン不足、薬の副作用などでも貧血が起こることはありますが頻度として多いのは上に挙げたものです。検査項目上は貧血があると「赤血球数」、「ヘモグロビン(Hb)」ともに低下しますが、混乱するといけないので健康診断の際はヘモグロビン値をチェックするといいでしょう。通常男性は13~15g/dL、女性は12~14g/dL程度が正常値ですが、ご高齢の方などは少し低めとなります。

なお、逆にヘモグロビン値が基準値よりも上回って高いこともあります。健康診断前で食事や水分をとっていないなどの理由で脱水状態にあると、血液中の水分も少なくなるので相対的に「血が濃く」なります。その他、喫煙者は多血状態になりやすい、などの特徴があります。

稀に先天性の心臓病や、多血症という血液の病気のこともありますので脱水と決めつけず、医師の判断を仰ぎましょう。





①-3 血小板

最後に血小板です。誰でも子供の頃など、転んで擦り傷ができたり少し血が出たりした経験があるのではないでしょうか。しかし、少しすると自然に止まりますよね?これは、血管に傷が入り出血すると、傷口に血小板という小人のようなものたちが集合して、傷をふさいで止血してくれるからなんです。
血小板は、血栓と呼ばれる血の塊を作ることで止血をします。当然、これがないと人は生きてはいけません。

血小板が高い場合:

血小板の正常値は血液1μLあたりだいたい15万~40万個くらいです。
50万、60万を超えるようだと、多血症と呼ばれる病気の可能性があります。
先ほどお話ししましたが、血小板は血液を固めて血栓を作る作用があるので、余りに血小板値が高い場合は(多血症と呼ばれる病気)、血栓症(脳梗塞や心筋梗塞など)が起こりやすいため治療が必要です。

血小板が低い場合:

血小板が低い場合は肝臓が悪い場合、重症な感染症(敗血症)の場合、白血病などの血液の病気、などが考えられます。いずれにせよ極度に血小板が低いと今度は逆に「出血しやすい」状態と言えます。
ただし血小板の数値自体は3万以下など極端に低い場合を除けば止血機能は何とか保たれていることがほとんどです。ただし血小板が低い理由が大事なので、なるべく早く検査をして原因を調べましょう。


いかがだったでしょうか。血球成分はたった3種類しかありませんが、血算の話は意外に奥深く、それで本が1冊出るほどです。また白血病などに代表される「血液疾患」と呼ばれる少し難しい病気のこともあり、残念ながら全てをご紹介するのは難しいと思います。

余談ですが、「アスピリン」などの抗血小板薬と呼ばれる系統の薬は、血小板に抗う、つまり血液が固まりにくくする(血液をサラサラにする)薬で、脳梗塞の予防や心臓にステントを入れる場合などに使われる薬です。便利な反面、出血の副作用が起こることがあります。



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こんばんは。アルバイトからの帰り、電車が止まって思わぬ足止めを食らってしまいましたが、何とか動いてくれたので帰宅中です。
さて、アルバイト先の医局で脳梗塞のパンフレットを見つけたのでネタにしてみました。

脳梗塞というのは、脳に酸素や栄養を運ぶ血管のどれかが血栓などで詰まってしまう病気です。梗塞、という言葉が詰まることを意味していますから、心筋梗塞も同じ理屈です。

では、脳梗塞とはどのような症状が出る病気でしょうか? 私は母や祖父からよく「頭痛がする、脳梗塞かもしれない」と相談を受けることがありますが、それは少し違います。例外はありますが、脳梗塞、つまり脳の血管が詰まると、その領域の脳の機能が悪くなります。具体的には麻痺症状が出ます。詰まってしまう部位にもよるので、うまく言葉がしゃべれなくなったり、手足が麻痺したり、顔にシワが寄らなくなり左右非対称な不自然な表情になります。

ここがポイントですが、神経は途中でクロスしているため、右の脳梗塞では左麻痺が、左の脳梗塞では右麻痺が起こります。

普通は血管が急に詰まるときは1つの血管なので、詰まった血管と逆の手足が動かなくなるわけです。これを片麻痺と言います。


さて、脳梗塞の症状はこれで分かりましたが、どんな原因で病気になるのでしょうか?

大雑把に分けると、首を通って脳に栄養を与える血管(動脈)が徐々に動脈硬化を起こして詰まる場合と、不整脈が原因で心臓に血栓ができてしまい、それが脳に飛んで脳梗塞が起こる場合があります。

脳に栄養を与える血管が詰まる、のはわりと自然な話ですが、心臓に血栓?というのは聞きなれないかもしれません。

今回はその不整脈と脳梗塞の関係について少し詳しく説明します。

前回心不全の回で、不整脈にも色々ある、と言いましたが、心房細動という不整脈をご存知でしょうか?

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ここでパンフレットの絵の説明になります。心房細動とはズバリ心臓の上の部屋が小刻みに震えることにより、左心耳という場所で血液が固まり、血栓ができてしまうのです。心臓にできた血栓は、運が悪いとそのまま大動脈という全身に酸素や栄養を与える血管を通って全身に運ばれていきます。この心臓でできた血栓が脳の血管にいくことで血管が詰まってしまい、脳梗塞が起こります。このため専門用語では心原性脳梗塞と言います。心臓が原因の脳梗塞ということですね。

ご高齢の方や血圧が高い方、糖尿病の方は、この心房細動があると血栓ができるリスクがより高くなるので、予防のため血液をサラサラにする薬が処方されます。

不整脈は心臓のことなのに、脳梗塞の話になってしまう。ここが怖いところでもあり、ポイントなのです。

血液をサラサラにする薬ですが、残念ながら現在の医学ではノーリスクで使える薬は開発されておらず、血栓、つまり血が固まるのを予防する代わりに出血の副作用が起こることがあります。私たちは患者さんごとに、出血のリスクが高いのか、それとも脳梗塞のリスクが高いのかを見極めないといけません。もちろん一定の基準はありますが、例えばかなり高齢の方で転んで転倒しやすい(転倒して頭を打ったら脳出血するかもしれません)、みたい数値化できないことも大事なので一定の基準と医師の経験や判断により治療を決めないといけません。

良かれと思って血液をサラサラにする薬を処方しても、残念なことに出血を起こしてそれが致命的となり亡くなってしまう方もいる。

今後医学がさらに発展し、どちらも防げるような薬が開発されるといいのですが。


明日からまた月曜日、1週間が始まりますね。
それではまた。そろそろ電車も上野駅に着きます。おやすみなさい。

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